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2016.11.01

「中古住宅」という価値のゆくえ

時代の潮目は明らかに変わってきました。
日本の人口は2008年を境に減少し市場は停滞して、もう右肩上がりの成長社会では
無いことは誰でも判っていること。

住宅戸数も、供給過多で随分前から余剰住戸は増え続け、空き家の数は年々増え、
いまや800万戸を超えています。

しばしば指摘されるように日本の住宅寿命は極めて短く、滅失住宅の築後平均経過
年数は30年程度。人間で言えば長生きして捨てられるか早死にするかといった結末。

日本経済が元気だった頃は古くなったら壊して新しい家を建てる事が良いこと、正しい
ことであったのだけれど、環境共棲時代の昨今、今あるものを活かし、長く使い続ける
ことに価値観を見出す時代がやってきたのは言うまでも有りません。
しかし、リフォームや増改築、リノベーションに対する考えや意識はまだまだ過渡期で
あって、建築家・建築士をはじめとしたクリエーター・技術者と市井の住まい手の
思いや考え方には、まだまだ隔たりがあるというのが実情ではないでしょうか?

一方で古民家再生、町家の利活用などというのは一種のブームみたいな感があり、
それを自身の設計や施工のライフワークのように位置づける設計者も多くいます。
古民家の再生や町家利活用はもちろん、とっても大事なこと。しかしながら皆が目を
輝かせて古民家だ、町家だという建築の数はやはり数少ないのです。
そうでは無い、いわゆるただの「中古住宅」。これをどのように捉えるかが重要なカギに
なるように思えてなりません。

明日香イメージスケッチ

改修提案と現況調査は不即不離の関係

戦後、高度経済成長期に床座から椅子座に変わり(つまり和室が減り洋室が増えた
ことと同義)、続き間が減って個室が増えた(開け放てる引戸が減って、固定の間仕
切りとドアが増えたことと同義)時代に多く建てられた家々。

それらの中にはどうしようも無いバラックや、建てて売れたらハイOKというような安易な
建売り住宅もあるでしょうが、多くの住宅はその土地の大工をはじめとした職方が、
それぞれ身に付けた技能を発揮し丁寧に作った家であり、まだまだたくさん残って
いるはずです。

ただ部屋並べをしただけのでたらめな間取りでは無く、きちっと軸組小屋組が組まれた
架構の中に間取りが内包されている住宅であれば、多様で魅力的な改修やコンバー
ションが可能になります。
このような中古住宅に光を当て、新しい価値観を付加し、愛着が持てるように昇華しな
がら再生活用していくことが、本当にこれからの時代に必要なことのように思います。

京都伏見のまちかどスケッチ
中古住宅の適正な維持管理の積み重ねが、やがて古い街並みをつくる!?

そういった中古住宅を含む既存住宅の活用のため、国が「既存住宅インスペクション
・ガイドライン」を定めました。ストック重視の住宅政策にきちんとシフトできるよう、
なし崩し的なリフォーム・増改築では無く、建築士など専門家による統一性をもった
明確なルールの下、現況検査(インスペクション)を行ったうえで中古住宅の売買や
増改築など行う事を義務付けて行こうというのが主旨。

一定条件をクリアすれば補助も付けて行こうという考えです。こうした時流から建築・
不動産などの関連団体がこぞって講習登録団体になり、団体ごとにインスペクターの
養成を行っています。

この資格は3年毎の更新が必要となり、その都度、更新講習を受講しなければなり
ません。「インスペクター」として登録された技術者は3年ごとに更新講習を受講し
継続的にスキルアップに努めるくことになります。

今の世の中、建築関連資格は腐るほどあります。これらのインスペクター資格が、
形骸化した名ばかりの資格では無く、実益を伴う生きた資格として、広く世間に
根付いていくことを期待するとともに、愛情を持って長く大切に使われる住宅が増え、
そんな家々が集積した美しい街並みがこれからの日本に増えていくことを
願って止みません。

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