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2016.09.21

醤油の匂いの香るまち、湯浅・歴史遺産の町並みを歩こう002

熊野参詣道に発展してきた醤油醸造発祥の町・湯浅(和歌山県有田郡湯浅町)

和歌山県・湯浅

紀伊水道に面した沿岸の小さな町である湯浅は平安時代から熊野参詣の宿駅として
史料に登場する。15世紀半ば熊野街道筋に当る現在の道町界隈が発達し、時代が
下り道町より海側に向かって順次新しい町が開発され、現在の旧市街地が形成
されているという。
良湾に面した港町であることと、参詣道という街道筋に位置することが交通・流通の
要所として繁栄する要素であった。

この町は日本の醤油醸造発祥の地として知られ、江戸期から昭和初期にかけて湯浅
の町には多くの醸造蔵が建ち並び繁栄を誇った訳であるが、現在はその数も減少し
圧倒的な町家・醸造蔵の建築群があるという訳ではない。しかしながら要所に伝統的
な作りの旧い蔵や家屋が残されており、今も現役で稼働する醸造蔵からは醤油の
香りが漂ってくる。

湯浅の町並み1

本瓦葺きの重厚な町家・蔵は基本的に切妻平入りで、旧市街地の北部に多く残され
ており、とりわけ北町通りには角長や太田久助吟製など江戸期来の伝統を持つ老舗が
あり、魅力的な旧い町家である。昔と変わらぬ場所で昔と同じ良品を生産・販売し続け
ていることが単なる建物の保存では無く、生きた町の保存であることを物語っている。
家屋群と生業が不即不離に一体となっていることが素晴らしい。
北町通りは景観としても重伝建地区として最も整っている。旧市街地の北に醸造蔵
など伝統建築が多く残されているのは市街の北側にある山田川との関係が大きい
のであろう。
この川が荷の積み下ろしのために小船が出入りする海運の出発点だからである。

東西に走る北町通りの他に南北に走る三つの通り(海側から浜町通り・中町通り・鍛冶
町通り)があり、重伝建指定から10年が経ち少しずつ整備が進んでいるようである。
旧市街はこれらの通りと人がやっと通れる細い路地(小路・“しょうじこうじ”と呼ばれる
ようだ)で形成されているが、路地に面した個人の家屋などは空き家や空き地になって
いたりする。危険な状態の所もあったようであるが、公的な場所は資料館として公開
されている甚風呂の様に再生保存され活用されている。

湯浅の町並み・せいろミュージアム~町並みに彩りをあたえている

通りに面した町家の格子にせいろミュージアムと呼ばれる湯浅にゆかりのある古民具
などが麹作りに使用するもろ蓋を使って展示されている。町全体が民俗資料館である
と見立てて設えられている訳であるが、粋な設えで道行く人を愉しませてくれる。
各々の家のお宝などを展示している訳ではないそうだが、季節ごとに展示品を変えた
りすると訪れるたびに見るものが変わり、もっと魅力的になるだろうし、さらに数が
増え、内容も多様化すれば良いと思う。

保存と観光など活性化の両立について、いろいろとやり取りがあったようであるが
観光地化していない事がやはり魅力的に感じる。
湯浅に限らずその土地に住む人々の暮らしが主役になっている町並み保存が
理想であることは言うまでも無い。

湯浅老舗醤油醸造・角長湯浅金山寺味噌の太田久助吟製

老舗醤油醸造・角長(上)と金山寺味噌の製造販売・太田久助吟製(下)
共につし2階建てで、プロポーションがとても美しい!

湯浅の町並み・北町通りの景観

旧い街並みがしっかりと残っている北町通りの景観

湯浅の町並み・中道通り

中道通りから北町通りの望む辻の景観。 湯浅の町並みは全体的に揃い過ぎていない所がいい!?

湯浅・甚風呂

保存復元された公衆浴場・「甚風呂」は湯浅の資料館として公開されている。

湯浅シンポジウム

追記 : 2度目に湯浅を訪れた時は、あるシンポジウムに参加させて頂いた。

基調講演として京都大学大学院工学研究科の神吉紀世子教授の話を
聞かせて頂きました。
前職の和歌山大学システム工学部環境システム学科助教授時代から湯浅の
町並み保存の活動に接し、平成21~22年度に和歌山初の伝建地区指定の
調査・準備に携わってこられた方ならではの裏話、よもやま話を語って頂き、
町並み保存の難しさや苦労そして喜びややりがいといった所を学べました。

画一的で形式ばったアカデミックな話では無く、フィールドで汗をかいた人の
話だから聞きやすかったし親しみも感じられました。

シンポジウムの中でもまちづくりは人づくりであり、ネットワークつくりから始まる
といった内容の話があったのですが、登壇されたパネラーの方々は皆、情熱に
あふれ自分に出来る事を自分の立場なりに委縮もせず背伸びもせず真摯な
姿勢で湯浅のまちづくり・町並み保存に向き合っておられることを感じました。

伝建地区指定から10年が経過し、真価が問われるのはこれからの取組みに
なるのでしょう。
パネラーの皆さんの心意気を察すれば決して悪い方向には行かないと思うし、
やはり世代交代というか同じ志しでさらに困難になるであろうこれからの時代を
担ってくれる次世代の育成が急務なのだと思いますが、湯浅の町を想う愛情と
失敗や批判を恐れぬ勇気があれば開ける未来はあるはずです。

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