風土社の雑誌『チルチンびと』の76号(2013.07.01発行)に信貴山の棲居[桜並木の家]
が紹介されています。
信貴山の棲居
敷地は奈良県三郷町信貴山の東麓に位置し、信貴山に上る登山道に沿う様に
高台にある。
大和盆地の風景を遠望できるこの土地に結婚を機に新居を建てようと思った
建築主と初めて会ったのはもう8年ほど前の事。
少々不便でも街中の喧騒から離れて静かな自然の中で過ごす事を
目的とした住宅です。
最初に敷地を訪れた時、苔むした石垣の上に緩やかに傾斜した土地は、
沿道や周囲の土地に大きく育った桜並木によって掌で包み込まれている
ようだった。できることならこのままの土地形状を活かした住まいの計画をと
思ったのだが、石垣の安全性や脆弱な地盤への対応などいろいろな
問題点を解決し、安心安全な家にしたいという建築主の要望で土地は
開発行為をかけて造成されることになった。
擁壁の上に平らな宅地が出来あがったが、桜並木に包まれながら木々の
間から眺望を愉しめるロケーションに変わりなない。
求めたイメージは山の上の小さな分校の木造校舎。
素朴で素直で質素な家がこの場所にはピッタリくると感じた。その想いは
建築主も同じこと。
単純で明快な切妻屋根の構造架構の中に必要とされる部屋を滑り込ませた。
周辺の自然環境と呼応するように開口部を設け、南東と北西に設けた庭と
ダイニングリビングが一列に流れるように繋がっている。
アウトドア派で活動的なご夫婦のため、いつも家の中で過ごしていると
いうのは似合わない。
季節や時間に応じて北庭・南庭をうまく使い分けながら屋内外を有機的に
行ったり来たりの暮らしができるように配慮したつもり。
南庭には深い軒内の土間空間を作り、内外を繋ぐ中間領域としている。
北庭の木製デッキは夏場の朝日を受け、日中は建屋の陰になるので
涼しげで過ごしやすい“夏のデッキ”。
信貴山頂や朝護孫子寺も望めるし、順光で桜並木を愛でる事ができる
裏の眺望スポットだ。
幾多の事情があり途中中断を経て、初めて敷地を訪れた日から完成まで
足掛け7年を要した。
建築主と一緒に庭造りに使う枕木や石を探しに行きトラックで運んだりした
事もいい想い出になっている。
造成のために最小限の桜が伐られ、当初の様な包まれた感じは少なく
なってしまったが、一方で住まい手が暮らしの中で庭づくりを通じて植える
木々が大きく成長し周辺の緑と同化し、再び緑の掌に包み込まれたような
環境に育っていく事を願ってやまない。