旧大阪電気軌道富雄変電所
~近代化の記憶の中で食事でも
近鉄奈良線の富雄駅ホームから北を望むと大きく育ったミモザやヒマラヤスギの
木立に見え隠れし、赤レンガの洋館が望めます。
補色の赤・緑の対比が互いを引き立て、なかなかの存在感を示しながら現在は
おしゃれなレストランとして活用されているこの建物の正体はなんだろう?
近鉄の創業母体・大阪電気軌道の奈良線開業に際し電鉄用変電所として建造された
4カ所の変電所唯一の生き残りである歴史的建造物です。大正3年に完成している。
ということは昨年秋に創建当時の姿によみがえった東京駅と同じ年で御年99歳。
奈良県内では数少ないレンガ造りの洋風建築であり、奈良の発展に寄与した
旧大軌鉄道の鉄道施設となれば貴重な近代化遺産と言えるでしょう。
外観は明治末期からのレンガ建築の特徴を良く残し、レンガはイギリス積み、RCの
頭繋ぎはネオルネサンス様式でセセッションを思わせる装飾が施されています。
南側正面は花崗岩のキーストンによるシンメトリーを強調したデザインで威風堂々と
しながらも、建物のスケールがさほど大きくないので親密感があります。
富雄川に沿う幹線道路からよく見えますが、西側外壁には、これは何でしょうと
いうような半ダースの丸い穴が横一列に並んでいます。
実は変電所時代に高圧線を建物内に引き込むための開口。東側には変圧後の
電気を送り出した8つの穴があります。
店子のレストランの名前は「アコルドゥ」。バスクの言葉で“記憶”という意味だそうです。
創業当時の面影と痕跡を残す近代化遺産で遠い日の記憶に想いを馳せ、
モードスパニッシュ料理に舌鼓を打ってみてはどう?
(注)この文章は(一社)奈良県建築士会の会報誌に掲載された内容を筆者が一部、
加筆修正したものです。