飛騨高山の重要文化財、吉島家住宅。明治38年の火災後、西田伊三郎棟梁により
再建された高山町家の最高傑作。(*注;西田棟梁は立体格子のような小屋組を組み
上げた直後に心臓発作で他界している。弟子の内山新造がその後を継いで、残された
工事を完了させたとの事。)
表通りに面した大戸口から「二引両(ふたつびきりょう)」なる暖簾を潜って“入口どーじ”
と呼ばれる風除室的なスペースを通り、中に入ればそこが“どーじ”と呼ばれるたたき
土間のスペース。そこは高く吹抜けた静謐な空間である。写真は“どーじ”から“おーえ”
“なかおーえ”“だいどこ”と呼ばれる母屋部分を望む。格子戸の奥が“だいどこ”で
囲炉裏があり、炭火である。上を見上げると、梁・小屋束・貫といった小屋組材を一切
隠すことなく現しにした匠の技に圧倒される。
高山の民家は基本、切妻屋根である。その構造は小屋梁の上に束を立て、屋根荷重
を大梁で受けて柱に伝える「和小屋」の構造。小屋梁にはアカマツが使われ、柱は
桧材が使われている。「牛」と呼ばれる大梁、軒桁まで達する大黒柱、牛梁の上に
桁を架けて、その上に束を立て、さらに桁を梁を組んでいく。ジャングルジムの様な
立体格子の吹抜空間である。その架構は秩序正しく優れて美しい。
国がこの建物を重要文化財に指定した大きな理由の一つにこの梁組の吹抜の美しさ
があると言われている。
お隣に軒を並べる日下部家住宅(こちらも国指定重要文化財)も同じく雄大な吹抜空間
をもち、梁組を露出している。その豪快さや堅牢さは構成主義さながらの空間美を醸し
出している。空間の広がり、梁組の重厚さや量感といった点で日下部家住宅は男性的
で、その秩序感、高窓から落ちる光が織りなす陰影による艶っぽさなどで吉島家住宅は
女性的だと感じた。飛騨高山へ行った折は必ず両方見るべし。