戦後の日本を代表する知識人のひとり、加藤周一。その知的関心は自然科学、
人文学、社会学、文学、芸術など森羅万象にわたっている。
時間と空間という視点から日本の文化を分析するために書かれた氏の最初の
著作が「『源氏物語絵巻』について」。その後、この視点から書かれた何冊かの
著書を経て集大成的に書かれた一冊。
日本の思想史について加藤周一が考えてきたことの要約である。
文学・絵画・建築など豊富な作品例を縦横無尽に比較参照しながら日本の文化の
神髄を貫く時間と空間に対する感覚を「今=ここ」という概念で捉える。
(はっきり言って、かなり難しい。)日本文化の本質、その可能性と限界を問う内容
であり、読み解くにはまだまだ人生経験も必要なのである。
加藤周一の提示する動機の奥底で通奏低音のように流れるのは「時間-空間」の他に
「特殊性と普遍性」「変化と持続」といったもの。そして「思想」は「暮らし」とひとつながり
であるということを示している。
時間は延々と続き、如何にも無限のように感じるが実は有限、逆に空間は一定の
限りがあるようでその実、無限に拡がるもの。『時間有限 空間無限』、以前、師・
吉田先生に教えられた言葉とも重なる。