住宅の窓・開口部~日本の風土と建具デザインと居住環境Ⅴ
日本の風土と建具のデザイン、居住環境に関することをあれこれ書いてきました。
最後に襖のデザインやそこに表される襖絵に触れてみたいと思います。
狩野派などに代表されるように古建築の中でも襖絵というものは芸術品としての
扱いを受ける場合があります。言ってみれば建築空間の部位がそのまま国宝に
なっているような場合もあるわけですね。
日本画家・千住博氏の「大徳寺聚光院伊東別院」の襖絵「滝」(*1)なども
同じように芸術作品としての制作であることは言うまでもありません。
それらとは別に日常のケの部分でも、襖絵には空間に気品と色気を与える魅力
があるように思うのです。その絵が新たな余白を生み出し、建具が動くことで
その景も変容していくのですね。
わが師である建築家・吉田桂二氏は自身が設計した住宅などの襖に襖絵を描か
れる事が多くあります(*2)。東京美術学校(現東京芸大)出身の氏にとって絵を
描くことは朝飯前かも知れませんが、「その建築を設計したサインみたいなもの」と
言い、出来心で描くと言われています。出来心が湧いて来る由縁は“らくがき”
たいなものだとうそぶかれるのですが、たしかにその作法はらくがきの如く速描
なのです。
どんな絵でも2時間を越えることは先ず無いといいます。墨汁、水彩絵具、岩絵具
を使用して一気に描きあげるんですね。下描きなど無く、いきなり白い襖紙に絵筆を
走らせる。建築を作ることは楽をすることをせず、楽しまなければならない。
(同じ字でもぜんぜん違いますネ!)それは作り手である設計者や施工者だけで
なく建築主ももちろんのことであり、このようにその建物が建てられた場所、建て
られた時代、建てた人々の想いによって描かれたひとつの絵によってふたつと無い
個々の建具をデザインしていくことは、その建物がいつまでも記憶の中に残ることに
なり、このような精神性がまたその空間の質を高めていくことになるのでしょう。
ここまで述べてきたことから、現代住宅に於いて良い建具のデザインとは
何かを考えてみたいと思います。
①機能から発想された建具(建具が入る空間や部位に求められる機能性を
前提とした素直なデザイン)
②材料の特性から発想された建具(使用する材料の良さを活かしたものあり、
異なる材料を組み合わせ、互いに補完しあうようなデザイン)
③空間デザインと調和した建具(空間の意匠と呼応する、時には空間に対し
適切なアクセントを付加するデザイン)
という3点が大きなポイントになるのではないかなと思います。
これを実現するにはデザイナー(建築家)とアルチザン(職人)との互いの立場を
理解しあった協働作業が不可欠なのかも知れなません。実際にそんなコラボレ
ーションにより完成度の高い木製建具を創り続けている作家もおられます。
(*3)
木製建具は檜や杉といった加工しやすい素直な木材が入手できる日本の
豊かな林野環境を背景として、優れた施工技術に裏付けされた日本の誇るべき
建築文化のひとつなのです。多種多様なその建具形態と開閉形式の選択と
開口部の高さ、幅の設定は、空間のデザインや使い勝手を大きく左右するため、
既に建具デザインの内と考えるべきなのです。
環境の時代と呼ばれる21世紀において、木という私たちにとって最も身近で親しみの
深い自然素材によって作られる木製建具がこれからの居住空間をどのように醸成
させていく事ができるのか興味は尽きないではありませんか。
<終>
*印については「普通の家 普通の暮らしを求めて」に補足説明を載せています。
そちらもごらんください!