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2010.06.08

「和」を象徴する引戸文化

住宅の窓・開口部~日本の風土と建具デザインと居住環境Ⅳ 

和紙障子

開け閉めを曖昧にしておくことができる引戸は、いかにも日本的な建具であり、
これに対して開き戸は開くか閉じるかどちらかの、つまりイエスかノーがはっきりと
している欧米的な建具と言えなくもありません。日本の美意識は結界の美と言え、
曖昧で優柔不断な部分があるかもしれませんが、自然と一体となる暮らしを求め、
内と外の柔らかい空間の繋がりにこそ美を感じる国民性であるのです(*1)。

全開できる木製建具(全てひき込んだ状態)全開できる木製建具(戸袋の中の状態)
開口部に必要なさまざまな機能を思い巡らせてみると、建具などの重ね使いが
それを充足させるための手段であることに気づきます。改めて建具を重ね使いして
きた伝統的な開口部の創り様を見直す必要があると思います。日本建築の伝統の
中には豊かな軒内空間が存在していた訳ですが、この中間領域が居心地の良さを
決めるひとつの指標となり、軒内のあり方が住宅の居住性能や耐久性能に大きな
影響を与えているのです。 

吉田五十八設計による「旧猪俣邸」(*2)の居間部分は庭に面して2間半の大開口
があり、雨戸、網戸、ガラス戸、障子戸などの柱間装置を全て壁内に引き込み開放
的な空間を創り上げています。引き込まれた建具を収納する戸袋が当然必要となり
ますが、それが外壁と一体感があるようにデザインされています。吉田五十八が
教鞭を執った東京芸大建築科の出身者にはこのように建具全てを引き込み全開
させる手法を取る建築家が多いですね。元来、引戸は召し合わせ部に気密性能上
の弱点があり、この部分をどう解決するかが重要なポイントになります。

建具には充分に乾燥した木材が使われますが、気密を確保するため建具同士、
建具と枠のクリアランスは3㎜程度に抑えます。このため、建具が少しでも反ると
開閉に支障がでるわけです。

梅雨時など湿度の高い季節は木の建具の動きが悪い時がありますが、これは建具
そのものの支障というより、建具の入る枠、鴨居や敷居に使用される木材が湿気を
含み膨張することが原因であることが多いのです。木材は常に湿潤状態でなければ
簡単に腐朽することはありませんが、なるべく木の建具は雨に濡れないようにしたい
ので、そのためには軒の出を深くしたり、庇を設けて雨露から守ることになります。
開口部の仕様、デザインがそのまま建築そのもののデザインや間取りに直結する
ことになるのです。

我が師匠である建築家・横内敏人氏が設計される住宅(*3)の特徴は、あえて柱
を飛ばすことなく1間おきにを据え、柱間を全て開こうとせず、開閉できる部分を
限定した上で他の部分を気密、断熱性能の高いペアガラスの嵌め殺しにすることで、
性能を確保しつつコストコントロールもする工夫があります。さらには和紙に見立てた
ロールブラインドを細工し木製ガイドレールに嵌めこみ、プライバシーの確保と冷輻射
とコールドドラフトを防止しています。この場合のロールブラインドはもはや建具の
ひとつと言ってよいと思います。バランスよく内外の空間を紡ぐ開口装置であると
考えられるのです。上下の框を隠し框にすることで気密性を向上させるだけでなく、
戸が閉まっている時でさえガラスが嵌めこまれているだけの開口ように見える視覚
効果も絶大なのです。

中野の家(永田昌民氏設計)

上の写真は建築家・永田昌民氏の「中野の家」(*4)のメイン開口で、横内先生と
同じ様な考えであり、庭を見ることだけを考えて建てられたと言ってよいくらい室内と
庭の繋がりが自然で素晴らしいと思います。やはり、1間おきに据えられた柱が
程よいリズムと秩序を醸し出し、開閉できる部分と嵌め殺し部分が写真からだけ
では窺い知れません。内側には引込障子があり光の制御と外の気配を映す柔らかな
スクリーンとして機能し、さらには経木スダレで閉じていながら外が透けて見えると
いう役割を見せています。この経木スダレを建具に組込み光と風さらには防虫まで
コントロールする建具をつくることだってできるのです。(コストは嵩みますが)
その開閉により肌で感じ取れるくらい自然環境をコントロールし生活を豊かにして
くれます。このようにひとつのアイテムがその用途や状況に応じ、如何様にも制作
できる多様性があることが木製建具の最大の利点ではないでしょうか。

*印は「普通の家 普通の暮らしを求めて」に補足として説明書きを掲載しています。
  合わせてご覧ください!

 

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