ダディーズアットホーム
HOME » 旅のすすめ » 数寄屋とどら焼きと富士の山 – 御殿場建築紀行(後編)

2010.04.04

数寄屋とどら焼きと富士の山 – 御殿場建築紀行(後編)

御殿場建築見学の旅は地元の蕎麦処でお昼を頂き、午後の見学へ。

御殿場東山旧岸邸
福乃家さんから出て湖水前の交差点を渡り、北東へ歩くこと約10分。手入れされた
雑木林の中に目的の建物はある。趣のある茅葺の山門を潜り、人がやっとすれ違える
くらいの狭い露地を進んでいくと左手に「とらや工房」が見えてくる。その右奥には
「東山旧岸邸」が建っている。厳密に言えば敷地は別なのだが、ひとつの雑木林の中で
ふたつの建築は着かず離れずの距離感で一対のものとなっています。
とらや工房と旧岸邸へのアプローチとらや工房へ向かう山門エントランス。竹林や雑木林を抜けて「とらや工房」と「旧岸邸」へ至るアプローチです。
とらや工房・旧岸邸見取図
 先ずは奥にある「東山旧岸邸」から見学することにしましょう。現在は寄贈され
御殿場市の管理。入館料(一般)を300円払って入館です。元はガレージであった
という場所が改築され事務所スペースとなっており、ここに受付や休憩コーナー、
来館者トイレ、ショップなどが併設されています。休憩コーナーでは御殿場を愛して
やまなかったという岸元総理を紹介するモニターなども有り。とらやの羊羹も
売っている。(岸邸平面図付!)
東山旧岸邸の外観(北面)
いよいよ本宅内へ入る訳ですが、主玄関からではなくて勝手口のような場所から
入る様になっています。これはちょっと残念ですな。管理上仕方がない部分もある
でしょうが、やはり正規の動線で室内に導かれたいものです。
内玄関を通り階段室(展示室1になっています。吉田五十八とこの岸邸のことに関して
説明があります。)へ。あぁヨシダイソヤ!という感じの階段手すり、あかり障子、照明
などが目に入ってきます。2階は開放されていないので階段は登れませぬ!
階段室を過ぎると正規の玄関ホールがあります。(ここが展示室2となっていて、
岸信介元首相に関する展示があります。)玄関も覗けますが、土間には降りたらダメ。
本来ならゲストはまずこの玄関ホールのスペースに通されるわけですね。玄関ホールと
いう名前ですが、もうここが応接間という広さと設えなのです。小さな中庭に面し明るい
陽光が入ってきて、この中庭を中心にして居間(展示室3になっています。)、食堂、
厨房がぐるりと取り巻いています。厨房の奥は先ほど入ってきた内玄関とつながって
おり、たぶん女中さんなんかのスペースなんでしょうね。茶の間のような畳の部屋も
あるみたいです。接客用の座敷スペースは玄関ホールの奥に。和室へ続く廊下に
面して岸元首相の書斎があります。広い庭園は周囲の雑木林と一体になっており
野趣に富んだ庭ですね。
旧岸邸旧岸邸旧岸邸この旧岸邸は1969年の竣工で、吉田五十八にとっては晩年に作品になります。
近代数寄屋とか新興数寄屋と呼ばれた吉田の手法は柱を見せず、大壁が主体に
なっており建築を構成する要素を空間に現すことを極力減らすことにより意図した
造作意匠を際立たせ抽象的な空間を作り出したと言われています。
その善し悪しや好き嫌いは別として当時、日本のモダニズム運動とは対極に位置
されているとみなされていた吉田五十八という建築家にも確かにモダニストの
スピリッツが脈々と流れていた事を感じずにいられません。彼にとってのモダニズム
とは西洋のモダンデザインを直輸入することでは無く、伝統の中で硬直した日本
建築とその形骸化した建築様式を現代の生活に合わせるように改革することで
あったのでしょう。
和室はあれど椅子座を中心とした平面構成、アルミサッシなど新しい材料を多用
していることなどにそうした意識がみられるのです。そして徹底して美を追求した
ディティールはこの家にも随所にちりばめられていました。

とらや工房吉田五十八の建築美学の到達点を後にして、最後の見学建物「とらや工房」へ。
すぐ隣だから歩いて2、3分。梅林越しに弧を描いたモスグリーンのガルバニウム鋼板
立てハゼ葺き(屋根も壁も)の建物が見えてきます。1/4円にちょっと足らないくらいの
円弧を描いた平面構成です。ゆるやかな路地を下って行くとそのままポリカーボネイト
板のキャノピ-に覆われた回廊へと続く。
とらや工房厨房の中がガラス張りで回廊から見えるようになっております。和菓子をつくっている
様子を伺いながら、「さぁ、何を食べようかな~。」と考えながら物販・喫茶のスペースへ
導かれるというわけ。キャノピーを支える細い柱は「御殿場店」と同じく十字型柱が
並んでいます。この回廊が内でも外でもない中間領域で自然に屋外の自然を建物の
中へと呼び込んでいるのです。
とらや工房
とらや工房内部はレッドウッドによる仕上。これは内藤事務所のとらやの仕事すべてに共通して
いるとの事です。御殿場店然り、京都本店然りです。工房の特徴は杉集成材による
変形シザーストラス構造の小屋組み。一見、純木造のようにも見えますが主体構造
はスチール造で小屋組は木造。秩序正しい小屋組みの架構がウツクシイ。
とらや工房

 喫茶は薪ストーブが設えられた室内と半屋外のテラス席。南になる回廊側には
建具が無いのだが北側(円弧の大きい側)にはアルミの折れ戸が入っている。
(なんでこっちだけと思うのだが・・・防犯?風?結局よく解らぬまま。)この日は天気も
良く、せっかくだからお外であんみつを食べることにしたのです。(オイシイ)
その他にもいろんな和菓子があるのです。工房の和菓子は他のとらやの店で売って
いる品物とは違うらしいです。つまりここでしか食せない!季節によっても内容が
変わる。3月は梅が咲いていて綺麗でしたが、ここは四季折々の変化が大きい環境
なので、また季節を変えて訪れたいと思います。
「とらや」のいくつかの建物を設計されている建築家・内藤廣氏は「伝統とは革新の
連続」というとらやの精神を重く受け止めていると京都本店を内覧させて頂いたとき
おっしゃていました。先の旧岸邸の吉田五十八も同じですが奇をてらったことをする
訳ではなく、基本を軸に据えて常に新しい事に挑戦していこうという前向きな姿勢が
確かなものを生み出し、振り返ってみればそれが伝統となって立ち現れてくる
のでしょう。そんな意識で仕事をしなければと襟元を正すのです。
とらや工房の和菓子

さあ、御殿場日帰り建築見学もこれで終了。充実した一日でした。
でも、御殿場はいいところですね。どこからでも富士山が見えるし。
何日か前に降った雪のおかげで雪化粧した美しい富士山が見れたことは前篇でも
書きましたが、やっぱり富士山はいい。日本一であること間違いなし。
御殿場は富士山の東側にあるので眺めるには午前中ですね。順光で美しい富士が
見えます。この日も午後、帰る頃には雲がかかってしまいました。
三島で仲間と別れ、帰る途中、新幹線の車窓から富士の山に別れを告げながら、
さぁ、今度はどこへ行こうかなとあれこれ思うわけです。
富士山

★このスケッチは山梨県側から見た別の日に描いたもの。★

 

 

←前のページへ次のページへ→

Add to Google Yahoo!ブックマークに登録 RSS
特に業務エリアは決めておりませんが、奈良県(奈良市、生駒市、大和郡山市、香芝市、橿原市ほか)、京都府、大阪府、兵庫県、和歌山県、滋賀県、三重県など近畿を中心に ご縁に任せております。
一級建築士事務所 中尾克治建築設計室
〒630-0233 奈良県生駒市有里町117-19
telephone. 0743-76-2744 facsimile. 0743-76-5988