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2010.03.22

羊羹と首相と挨拶 – 御殿場建築紀行(前篇)

昨年の11月、御殿場にある岸信介元総理大臣の旧居が御殿場市に寄贈されたのち、
記念館「東山旧岸邸」として一般公開されることになったという記事をある雑誌のコラム
で読んだ。近代数寄屋建築のこの元首相の邸宅を設計したのは大御所建築家・吉田
五十八。
施工はこれまた数寄屋建築の名門・水澤工務店である。数寄屋最強タッグで元首相の
邸宅となれば一度見てみたいと思うのが建築をやっている人間の性というものである。

「そうだ、御殿場行こう。」とどこかの会社のキャッチコピーみたいなフレーズの思いつき
で御殿場建築紀行の旅企画は持ち上がった。そして御殿場というと畏敬する建築家で
ある内藤廣氏が設計された「倫理研究所富士高原研修所」や「とらや工房」「とらや
御殿場店」があるのです。一日で4度おいしいということで同志であるケンチク
ジャンキーズたち(3度のメシより建築が好きというちょっと変わったヒトたちの事。
なぜか美男美女が多い!というウワサ。)も巻き込んで(いや、お誘いして)行くことに
なったわけ。関西からだとゆっくり見学するには日帰りはキツイかなという個人的な
思いもあり、東京へ行く用事に絡めてスタートは新宿発の日帰り建築見学です。
御殿場建築見学

新宿7:20発の小田急特急「あさぎり1号」に乗り込み御殿場へ向かう。1時間38分
電車に揺られてJR御殿場駅着。小田急で行ったのに着いたのはJRの駅。そう小田急
が乗り入れているのですね。(御殿場にはJRの駅しかありません。関西の人間は
そんなことも知らなかったわけです。)
集合は9時。ケンチクジャンキーズが建築見学に遅れてくることはまず無い。
全員集合で早速徒歩で駅から約10分の「とらや御殿場店」に向かう。シャープでいて
おおらかな屋根庇が印象的な小さな店舗が見えてきた。建物は天井までガラス貼りの
開放的な店舗とレッドウッドの板壁で箱状に閉じられたバックヤードが6:4の割合で
構成されている。
とらや御殿場店
オープン前の店舗の外観を繁々となめるように見て回り、まだ暖簾がかかる前の
店内で開店準備をされているスタッフに図々しくも今日はこの建物を見るために遥々、
東は東北から西は関西からやって参りました!と少々おおげさな説明(本当の事
だけど)をし、どうしても中も見学したいのだという熱い想いを伝え、開店前の店内を
見学させて頂くことになった次第です。このほうが店に来られたお客様にもご迷惑に
ならないし、こちらとしてもじっくりと見学できるのであります。(とても自己中心的な
考えですが・・・)
とらや御殿場店(店内)とらや御殿場店(店内)
店内は外壁のレッドウッドをそのまま内部まで持ち込んでおり、南北とも天井まで
ガラスで天井と軒裏が一連の繋がりをもっているので抜けの有る開放的な内部空間に
なっています。北側には道路を挟んで神社があり、社の杜まで借景として取り込んで
いることがわかります。
深い軒が出ているとはいえ、フラットルーフ(実際には極めて緩い勾配屋根)にガラス
貼りの開放的な空間というのは内藤氏の一連の作品の中では珍しいようにも思い
ますが、周辺条件や各種法的条件などがあってこの形態になったようですね。
とらや御殿場店(押し出し形鋼十字型柱)とらや御殿場店(ファサード)










この建物でも内藤氏が得意の十字柱などが使われており、瀟洒で繊細な建築で
あることは一目でわかるのです。これには細部にわたる施工精度の高さが要求され、
その裏付けにより成り立っているデザインとディティールである事も忘れては
いけません。
下手に真似するとえらい目にあうこと必至です。ほんとに小さな商業建築ですが施工は
大手ゼネコンの鹿島建設が担当しています。
とらや御殿場店

さて、見学が終わる頃には10時の開店も過ぎ、感謝の意を込め美味しい羊羹を
購入させて頂き丁重に御礼を述べ、店を後にします。
タクシーを皆でシェアして移動すること約30分。途中、富士山が綺麗に見える。
数日前にかなり雪が降ったとのことで富士の山は美しく雪化粧。
富士山

次の目的地は「倫理研究所富士高原研修所」富士の裾野に建つ倫理教育を目的と
した民間団体の研修施設。この施設は一般に公開された建物ではないので
いつでも自由に見学できるわけではありません。
事前に施設の担当の方に問い合わせ見学申込をする必要があります。
倫理研究所富士高原研修所
この日は午前も午後も研修が入っており本来なら見学できなかったはずなのですが、
こちらの意向を伝えたら「この時間帯なら。」ということで特別に指定時間内で見学
させて頂くことが実現したのです。感謝、感謝です!人気建築家の作品ということで
見学申込は開館以来、後を絶たないようですが中にはマナーが悪い見学者や約束
やルールを守らない人もいるとの事で困っていると申し込んだときにお聞きました。
建築の設計を目指す若い人や建築業務に携わっている者にはそういった事が
無いようにしたいものですね。倫理教育の場である施設、こちらも背筋をピンと
伸ばして行儀よく見学させて頂きますゾ!と思いながら限られた時間の中で広い建物
を順次見せて頂きました。
倫理研究所富士高原研修所エントランスホール倫理研究所富士高原研修所食堂倫理研究所富士高原研修所講堂倫理研究所富士高原研修所教室棟
建物はエントランスと管理部門、教室ゾーン、宿泊ゾーンという大きく3つのゾーンに
分かれてコノ字型に配置されています。L型の大きな棟の中にエントランスホール、
管理部門、教室、食堂などが配置され、宿泊棟はコンパクトな棟が連棟のように
配置され、ちょっとした集落のような関係性を示しています。実際には一棟なのですが
ヴォリュームを抑え周辺の環境に溶け込んでいる様に感じられます。
エントランスホール脇にある講堂と広い芝生の中庭の反対側にある「清堂」(静坐室)
が対角線上に繋がり精神的に一対のものになっているような配置計画であることが
伺えるのです。主体構造は鉄筋コンクリート造で小屋組みが木造。この架構が
見せ場です。ベイマツ集成材による架構はコンピューターと工作機械を直結して
オートマティック加工されているとのことで、このことで高い精度の架構を組めスチール
を使わない木と木が直接、力を伝えあう複雑なジョイントが可能になったらしいです。
ムズカシイデスネ!
ちょっと不思議に思ったのが、棟の位置で対象に組まれていない事。一見、対称形に
見えながら実は非対称。何か意味があるのかな?雑誌等の資料を見てもその辺りは
触れられていなかったように思います。

この静謐な雰囲気を醸し出す空間で倫理教育・研修を受けた人間の心がどのように
変わっていくのかが興味がありますね。
僕のような意志の弱い自分勝手な人間こそ、単に建物見学だけで無く、この場で
研修を受けてこころを入れ替えなければならないかも知れません。
でも、それはまた今度にします。(ほんまに意志弱~)
倫理教育なんて言うとちょっと難しいですが基本はやっぱり挨拶なんでしょう。
きちっとした挨拶ができることが道徳の基本であることは間違いありません。
倫理研究所富士高原研修所清堂倫理研究所富士高原研修所宿泊室倫理研究所富士高原研修所教室棟内観

さて、御殿場印野にある富士高原研修所から次なる目的地の御殿場東山までは、
またまたタクシーを皆でシェアして移動。午後の見学先「東山旧岸邸」「とらや工房」に
程近い場所にある蕎麦屋・福乃家さんで美味い蕎麦を頂くことにする。

建築見学の旅では時間は無駄にできません。目的は建築を見に行き、そこで
知ったこと感じたことを自分の仕事に活かすこと。食事や他の事も愉しみのひとつでは
あるのですが、それを最大限有効に得るためには段取りが大事なのです。
したがって食事はどこで取るか、どんなメニューがあって、オーダーにどれくらい
時間がかかるか、待ち時間が長いなら前もって予約しオーダーも済ましておくということ
が必要になります。このへんがちゃんと出来ていると、御一行様ご到着~から愉しみの
食事が喉を通るまでがスムーズであり少しでもゆったりと過ごせるということに
なるのであります。

                                        後編につづく

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