奈良の近代化遺産4・旧長寿会細菌研究所 (フトルミン工場跡)
東大寺の裏参道沿い、静謐な空気に包まれた一角に何とも懐かしい風情の建物が
佇んでいます。
この建物は乳酸菌、イースト菌、椎茸菌など様々な菌類の研究と商品開発を行って
いた長寿会細菌研究所の研究所兼工場跡。
栄養失調が多かった時代に健康長寿を願い開発された乳酸菌飲料「フトルミン」の
研究と製造が行われてきた場所です。木造平屋建て、切妻屋根に和瓦が葺かれた
建物は小屋組みがトラス、外壁が南京下見板貼で大正14年築。
基礎がコンクリートでできており、大正の建築としては珍しいとの事らしい。
設計・施工したのは郡山出身の大工棟梁・大木吉太郎。大木家は代々、郡山藩の
御用大工を務めてきた家柄で吉太郎は頑固一徹の職人気質の棟梁だったと
伝えられていますが、和魂洋才の気概をもったクリエーターで近代奈良を築いた
建築家のひとりと言っても過言は無いと思います。
他に手掛けた建築には、この工場跡に隣接する喜多家住宅や育英学園校舎、
日本聖公会奈良基督教会などがあり、武者修行で東京に居る時は日本橋三越
ビルの新築工事などにも関わったようです。大正ロマンを肌で感じ、和とも洋とも
いえないモダンな空間を残した人と言えるでしょう。
さて、この建物は昭和50年代半ばまでは操業されていましたが、その後閉鎖され、
もうフトルミンは製造されていませんが、近年、その名も「工場跡」という名前の
カフェ・イベントスペースとしてリノベーションされ活用されているのです。
出来る限り手を加えず、往時の雰囲気を残したまま再生され、レトロ感いっぱいの
商空間に生まれ変わっています。