建築家・吉村順三をモデルに吉村のひととなりやその周辺のエピソードを
題材にした架空の物語。
主人公の「ぼく」はある老建築家の事務所の新人スタッフ。その老建築家の
モデルが吉村順三であるのは明らかなことだが、吉村の師であるアントニン・
レーモンドもこの主人公のモデルの一部に含まれている感覚だ。
老建築家が直接師事した師匠がフランク・ロイド・ライトであったり、
物語の舞台になっている軽井沢の「夏の家」のことや、その夏の家に
夏期の間、事務所機能が移転しここで共同生活をしながら設計業務に
従事することなど・・・ レーモンドの軽井沢の「夏の家」や「新スタジオ」を
彷彿させるし、老建築家・村井俊輔が手掛けた飛鳥山教会の件などは
吉村順三の実作よりもレーモンドの実作を連想する。
そして、小説上でライバル建築家という設定の船山圭一は、もろ丹下健三。
まぁフィクションなんだから、細かいことはいいんだけれど吉村順三さんや
アントニン・レーモンドなどに憧憬する身にとってはたまらなく面白い
小説です。[ぜひ、読んでみてくださいませ]
前書きも無く、後書きもなく、解説や何の説明も無い、まともな目次も無い。
帯にちょっとしたリード説明が有る程度。その校正がシンプルで新鮮に思えた。
この小説の作者は松家仁之(まついえ まさし)さんという人で、もともとは編集者。
これが小説家としてのデビュー作であるらしい。(処女作とは思えぬ出来栄えで
多くの評価を得ているそうだ!)
なんでこんな小説を上梓することになったのか知りませんが、建築関連の書物の
編集を多く手掛けてこられたようで、かなり建築関係には造詣が深い。
建築業界には知人友人も多いようですね。
実際、松家さんの自宅は吉村順三の弟子である建築家・中村好文さんの
設計。(松家という名をもじってPINE HOUSEという名前の作品で建築雑誌にも
紹介されています。)
登場人物の多くは実在の人物をモティーフにしているんじゃないかなと思うのですが、
誰が誰をイメージしてディフォルメしてるのか知りたいですね。
もしかしたら、「ぼく」は中村好文さんじゃないのかな・・・?
そんな想像を巡らせながら読み進めるのも面白いかも知れません。