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2012.11.02

カメハメハのフランク・ロイド・ライト

その昔、そう今から20年近く前のこと。まだボクががらにもなくゴルフクラブを握って
いた頃のことです。(恰好優先で、クラブやバッグは一級でしたが、腕前は三流で
スコアは毎度、除夜の鐘以上はたたいていたので、今ではすっかり辞めてしまった) 

ハワイに行った折に訪れた、あるゴルフ場のクラブハウスはなかなか洒落ていて
インテリアも外観もしっかりと造り込まれた建築でした。
ここのゴルフコースでプレイした訳ではなくて、このクラブハウスでは、ハワイの
伝統工芸や美術品を展示していて、プレイヤー以外でもショッピングも愉しめる
ようになっていたようで観光とショッピングで訪れたように記憶していますが、
ショッピングには関心が無くて、建物をしげしげと見入っていたら、現地の案内人
だかクラブハウスの人だったか忘れたけど、「アメリカ人建築家のフランク・ロイド・
ライトをご存知ですか?」と訊ねてきたのです。(むろん、その人はこちらが建築
設計事務所に勤めている人間だとは知りません。)
「このクラブハウスはライトがデザインした建物なのですよ!」といって、少しばかり
クラブハウスの建物について説明してくれました。その説明の中には、もともとは
クラブハウスでは無くてマリリン・モンローの別荘として設計されたとかいう
内容のものでした。

フランクロイドライトとカメハメハ大王のゴルフクラブ1

なるほど、そう言われてみればライト最晩年の作品であるマリン郡庁舎に似ていない
ことも無い。今思えば水平に広がる伸びやかな平面形、UFOが舞い降りたかのような
外観、曲面を多用し円と半円をモチーフに取り込み内外装のデザインを統一し、
風景に溶け込むような自然な素材と色彩を使い方、などなど如何にもF.L.Wである。

しかし当時はまだ建築の世界に入って3、4年の新米。やっと一級建築士になった
頃。ライトの名前や、その作品にマリン郡庁舎ってのがあるゾということを知っていた
程度で無茶苦茶関心があったわけでも無く、「へっぇ~そんなんですか。ライトの
設計なんですね~。モンローのためにデザインされたんですな!」くらいで終わり、
数枚写真を撮っておしまい。

日本へ帰ってきて、その後ちょっと調べてみたら、ライトのどの作品集や本を見ても
このハワイのクラブハウス(またはM・モンローの別荘)のことなど、写真や図面は
おろか、たった一行の文章も載っていないじゃありませんか。
「はは~ん、あの現地ガイド、適当なこと言いやがったな!(怒)」と当時は思って
いたんですが、実はまんざら嘘っぱちでは無かったのです。
でもフランク・ロイド・ライトの設計というには、ちょっと違う。

フランク・ロイド・ライトの設計図をもとに、出来るだけ忠実に再現された建築とでも
いいましょうか。真相は以下の通り。

*ザ・キング・カメハメハ・ゴルフクラブのクラブハウス説明文の一部を転載します
基となった設計図は、まず1949年にテキサス州ウィンドフォー夫妻の大邸宅建築の
ために描かれ、1952年にはこの設計図にてメキシコ政府官僚のアカプルコ邸宅
建築が計画されました。そして1958年マリリン・モンローとアーサー・ミラー夫妻が
コネチカット州に建てる別荘に採用しました。しかしいづれも建築には至らず、また
1959年ライト氏が亡くなり、以降アリゾナ州のフランク・ロイド・ライト財団に保存されて
いました。1988年、当時ゴルフコース開発が計画された際、周辺環境と融合する
デザインのクラブハウスとしてこの設計図を採用、建築されました。

ということらしいです。(現地ガイドさんもたぶん、このように説明してくれていたん
でしょうね。ちゃんと理解できてませんでした)
クラブハウスの完成は1991年。ボクが訪れる3年ほど前で、ライトが鬼籍に入った
のが1959年というから没後30余年の月日を経て、まさにUFOのごとく地上に
舞い降りたことになります。オリジナルのプランやデザインに対してどれくらい
ディフォルメされているのか判りませんが、ライト財団から許可されて建築して
いるのだから、かなりオリジナリティは確保されているのではないでしょうか。
まだデジカメが無かった頃、フィルムの残数を気にしながらシャッターを切っていた
時代ですから、この時間差攻撃のライトの遺作の写真は5枚ほどしか有りません。
今となっては、どんなプランだったのか、どんなデザインでどんな設えが施して
あったのか写真に写っている所以外はさっぱり思いだせません。
あぁ~勿体ない。せめて簡単なスケッチでも採っておけば良かったんですがね。
ハワイを統一した偉大なカメハメハ大王の名を冠に戴くゴルフクラブのハウスに
アメリカが誇る近代建築の巨匠フランク・ロイド・ライトの原設計が採用される。
時空を超えたスーパースターの共演、こんどハワイに行く事があったら、
ぜひ再訪したいと思うのです。

フランクロイドライトとカメハメハ大王のゴルフクラブ2エントランスファサード
フランクロイドライトとカメハメハ大王のゴルフクラブ3コース側から望む

フランク・ロイド・ライトは晩年やや誇大妄想なところがあり、シカゴに1500mを超える
タワーの計画を発表したり、とてつもない計画案を次々に発表しました。
公共施設も多く計画したようですが、そのほとんどが実現しないまま終わっています。
先に述べたマリン郡庁舎はそうした中で見事に結実した稀有な例でしょう。
起伏の多い丘陵地に計画されたこの庁舎建築はクライアントからは丘を削っても
良いと言われたらしいですがライトは自然を活かし、その丘陵地に溶け込むように
建物を配置しながらもふたつの丘の頂上に橋を架けたかのような建築を作りました。
独創的でありながら周辺環境に呼応するライトの有機的建築の集大成のような
建築です。ブリッジのような水平に長~い建物の内部はこれまた長ーい吹抜けの
ホールで同じように長ーいトップライトから自然光が降り注ぐようになっています。
垂直思考の行政組織の庁舎建築にリベラルな水平思考をもちこんだ空間は
写真で見ていても気持ちのいい空間です。しかし百聞は一見に如かず。
カメハメハのクラブハウスとともにぜひ行って見てみたいと思います。
(ところでマリン郡ってアメリカのどの辺にあるんだ?)

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