古くなっていくことを「古美る」と表現したひとが居た。ならばもっと進んで亡びる
ことも「亡美る」と表現できそうだ。モノであっても人であっても老いることは
恥ずかしい事ではない。歳を重ねた美しさがある。風化によって古色になっていく
ことをPATINA(パティーナ)というらしい。老いてやがて自然の歓待のなかに
消えていくこともやはり美しい。風化とはまさしく亡びの美だ。
左官の壁は自然に寄り添う事で生まれた美といえる。素材が折り重なる美しさ、
下地から仕上げへと塗り重ねられている中に宿る美しさ・・・
やがてそれらは懐かしい面影を残しながらゆっくりと自然に還って行く。
写真は昨年の秋、兵庫県西宮市の船坂の茅葺古民家を訪れた時に写したもの。
もう使われていない農家倉庫か納屋の朽ち果てた土壁。雨に打たれ土壁が落ち、
露わになった小舞竹。忍び寄る植物。人間のつくったものなど所詮、おおきな自然の
中のちっぽけなものであることが伺える。