今は無き、料理旅館「播半(はりはん)」の敷地内露地に敷き詰められた瓦の
木端立ての舗装を覆いつくす苔が瑞々しい。幾星霜の時間をかけてじっくりと
仕上がったディティール。
ランダムに敷き詰められているようで実は一定の秩序をもって繰り返されている
パターンがあった。「播半」は明治12年の創業。初代・播磨屋半兵衛が、心斎橋に
料理屋を開いたのが始まりで、谷崎潤一郎の小説「細雪」にも「芝居は鴈治郎、
料理は播半かつるや」と、その名が登場する西宮甲陽園の名門料亭であった。
山水に恵まれた地で、木造建築の粋をこらした風雅な料理旅館であったが、
時代の波に飲まれ休業買収解体の憂き目に逢い、もうこの様に人間の手仕事と
自然が折り合いをつけた素晴らしい仕上げも姿を消した。