住宅の窓・開口部~日本の風土と建具デザインと居住環境Ⅱ
木は人間にとって良い材料であることは疑いの余地が無く、誰もが認めるところで
あるでしょう。
建具というものが、建築を構成する部材の中で人間が最も多く手に触れる部位の
ひとつであることも明らかです。したがって、人間の手の触れる機会が最も多い
この建具を、手触りの良い温かみのある木という自然素材で作ろうとすることは、
気持ちのいい建築、居心地のよい空間を創るうえで重要な要素となるわけです。
建築基準法の防火規定により、外部に面する部分を木で作ることが現実には
難しい問題となっており、内と外を繋ぐ開口部もその範疇に入るため、その開口部
を閉じたり開いたりするアイテムである建具を木で作ることも同様の扱いで
難しい面があるのです。他にも気密性や水密性の問題、そしてコスト面など・・・
アルミサッシの爆発的な普及、さらには、昨今の建築はノーメンテナンスがひとつ
の“売り”になり、メンテナンスをしない使用者、住み手の支持によって、アルミ
サッシをはじめ、経済至上主義で製作された工場製品が大きく幅を利かす時代と
なってしまって久しいわけです。建築はその内部に人間の営みを包みこむ空間を
有することが他のどんな構造物や、彫刻など造形物とも違う点です。
建築が創られるためにはまず、屋根、壁、床などで囲い込む(ENCLOSE)ことから
始まりますが、それだけではもちろん建築空間としては成立しません。そこに出入
するための開口、光を呼び込み、風を通すための開口、必要に応じていろんな
開口部が包み込まれたシェルターに穴を穿ち(DISCLOSE)、それが外と内を
有機的に繋いでいくことにより、建築の空間は生まれるわけです。そんな有機的な
部位であるはずの開口部が無機質で冷たい素材によって構成されているのが
現代の家の実態ですね。あらゆるスペックに於いて工場生産された部材は、
昔ながらの木製建具のそれを凌駕します。しかし、建具職人がその知恵と受け
継がれた匠としての技能を駆使して制作された木の建具というものは、
スペックでは遅れを取ったとしても、それに引き換え余りある利点を兼ね備えている
ものであることも事実なのです。いくつかの事例をもとにそのエッセンスを紐解いて
みたいと思います。
下の写真にあるのは木で作られた、いわゆる木製サッシ(*2)です。
腐りやすい、燃えやすい、狂いやすいなどの理由から木製からアルミ製へと移って
いった引戸型の建具は、枠と一体となったサッシへと変容し、その気密性、水密性
は向上し安定しました。また、ガラスが嵌ったグレージング状態で現場搬入され、
住宅の生産工程を合理的なものにしました。しかし、アルミの素材としての弱点、
すなわち金属特有の冷たさや結露の問題は住み手にとっては馴染めないものです。
アルミサッシは一般に火に強いと思われがちですが、その防火上の弱点はグレージ
ング用の合成樹脂チャンネルやビードになります。それらが熱でゆるんでガラスを
保持できなくなるとアルミとガラスの間に隙間が生じ、急速な酸素との反応でアルミ
自体が溶けてしまうのですね。一方、木製建具や木製サッシュは、木部自身は燃える
ものの、こうした危険は無いといってもいい。したがって、まともに開口部の防火を
考慮するなら、ガラスを網入りにすることや耐熱ガラスを用いてガラスの割れとそれに
伴う火の侵入を防ぎ、シャッターや雨戸などにより輻射熱の防止を講じることのほうが、
建具の材質を問うことよりも本来重要なはずなのです。
現在作られている木の建具(木製サッシと建具職人による木製建具を示す)は、その
性能がアルミサッシと比較しても大きく劣るということは決して無いのです。加工する
道具や機械の発達により、建具の制作精度が格段に上がったこと。また、作り手自身
がアルミサッシの安定した性能を経験したこともあり、気密性、水密性、断熱性、建て
付けなどに対する意識が向上し、作られる製品としてのレベルは確実に上がっている
ように思います。
空間の融合と分離を自在に行うための装置として「動くもの」である建具は建築空間
の中で重要な役割を占め、間取りと建具の関係性を考えると、内外共に開放的な
間取りが良く、仕切るにしても壁ではなく建具で区画することが有効な場合が多い
のです。その理由として通風、採光など居住性がよくなることや、生活に合わせて
空間を自在に変化させることができること、家族構成の変化など経年使用に対し使い
回しが可能で、耐用性が向上するなどの理由が挙げられます。古びて銀ねず色に
変化する木の色はとても美しいものであり、このような美しい調和は時間が経過しても
味わいを増す事がないアルミ材では決して得られないものだと思うのです。
古びることにこそ、自然素材である木の味わいがあります。古びることを“古美る”と
表現する人もいます。うまい表現ですね。それは自然の中で自然と共に暮らしてきた
日本人にとって代えがたい価値観なのです。